Xシリーズ

VAIOだからこそできた薄さと軽さ、そして使いやすさと品質。
無理な力をかけるとLAN端子のフタが外れ、簡単につけ直せる構造
―― フルフラットの筐体も斬新ですが、開閉式のLAN端子のような従来にないギミックが採用されています。斬新なものを評価する品質設計でも新たな取り組みなどがあったのではありませんか。
笠井:
この製品でユニークなのは、品質の考え方です。例えば開閉式になっているLAN端子ですが、これには最初の時期に反対をしました。開閉式のコネクターというのは、通常のものに比べて壊れやすくなるからです。壊れやすいものはユーザーにとっての損失になります。ビジネスマンや、学生さんにとってPCは日常的に使用するもの。簡単に壊れたら日常生活に支障がでるのです。しかしそれを逆手にとった逆転の発想がありました。
新木:
開閉するフタの部分は無理な力を入れると外れる特殊な構造になっています。外れたフタは簡単に、はめられるのですぐに直ります。こうして“壊れる”のではなく、“外れる”というギミックを編み出したのです。ちょうど地震に対する免震構造と似た考えです。地震のときには、建物が揺れることで倒れるのを防いでいます。
笠井:
しかし「言うは易し、行うは難し」で、外れる力の案配を見極めるのが本当に大変でした。「簡単には外れない。しかし無理な力が働いたらすぐに外れる」というちょうど良いバランスを探して、いくつも試作品を作ってもらいました。また本体の底面に、筐体を傾けるためのチルトスタンドを出すことができるのですが、LAN端子と同様にこれも「簡単には外れない。しかし無理な力が働いたらすぐに外れる」ようになっています。こうすることで、使う人の損失につながらないようにしています。
ちなみに、チルトスタンドが用意されているのは入力しやすい傾斜を作るだけではありません。LANや外部ディスプレイのケーブルをつなぐと本体よりも分厚いのでガタガタしてしまうことから、それを回避するためにチルトスタンドで本体を浮かすようにしています。
柴田:
これだけ薄いと「壊れやすくないのか?」と不安になるでしょう。しかし、壊れにくさにも配慮して設計しています。「どこへでも持ち歩けるコンパクトさ」と謳っておきながら、「実際に携帯してみたらすぐに壊れた」では困ります。そのあたりはきちんと品質基準をクリアして、通常の利用の範囲内では心配がないことも確認しています。
連携を強化し、進化する安曇野プロジェクト
―― いろいろな部署のメンバーがお互いに意見交換、情報交換をしながら密な関係を構築しているのが伺えます。長野テックでの開発チーム内の連携が年々強化されているように感じるのですが。
笠井:
品質設計という私の仕事は、製品の品質をチェックしフィードバックすることです。通常の品質チェックは、製品がほぼできあがったころにテストをして、当初想定していたレベルをクリアしているかを確認する作業になります。しかし、そこでできるのは改善というレベルに過ぎず、本当にいいものを作ろうとしたら限界があります。
品質をもっと向上させるには、設計段階から、その製品に求められる品質を明確にして、設計に反映してもらう必要があります。この商品のターゲットユーザーだったら、どういう使い方をするだろうと想像して、そこで求められる品質基準を策定します。その基準をクリアすることを設計にも求めるわけです。
この長野テックでは以前から、そのように取り組んできました。長野テックには設計、技術、製造、品質保証と必要な人材、設備が全部そろっています。だからこそ、ユーザーにとって使いやすいPC、ユーザーに優しいPCが作れるのです。今回も試作を始める前から私も参加して意見をいうことができました。CADでの設計段階ならいくら意見をいっても、簡単に直してもらえるし、コストも抑えられます。Xシリーズのような従来にない斬新なモデルを評価することは楽ではなかったのですが、この体制のもとで作ったので特に苦労したということはあまりないのです。
林:
設計という仕事は、その担当者だけの仕事にしていたらダメなんです。特にXシリーズのようにコンパクトな製品は、最初から組み立てにくいのがわかっていました。だからこそ、組み立てにくいなりにどうやれば効率よく確実に組み立てられるかを製造、品質保証のメンバーも巻き込んで設計する必要があります。
今回もCADでの設計と並行して、チップを実装したダミー基板を作って、落下などのストレスチェックを行いました。そうやっていろいろなシミュレーションを繰り返し、品質を確認しながら、壊れにくさ、組み立てやすさ、メンテナンスのしやすさなどを確認しているのです。そうやって私たちはコンセプトの段階から、品質を重視しています。
―― そうやって薄型軽量でありながら品質を保持しているのですね。バイオノート505エクストリームが出たとき、これ以上薄くて軽いものは作れないのではないかと思ってきましたが、実現できるものなのですね。
林:
私たち担当開発者も新製品を完成させるたびにいつも「これ以上薄くすることは不可能」「さらにコンパクトにすることは無理」と思っています。しかしその次の製品開発では、新しいことにチャレンジをし、限界を乗り越えてきました。例えばTシリーズのときにも、これ以上薄い液晶パネルは作れないと思っていたのですが、今回さらに薄いものを開発しました。開発には終わりはないのでしょう。その分、スタッフに苦労をかけているわけですが(笑)。VAIO Xシリーズを実現したいま、次に自分たちが作るもの、これからソニーが作るものに、私たち自身期待しています。