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InsideVAIO SonicStage Mastering Studio : 開発者に聞く
04 technology
驚異的なチームワークで、いいソフトが完成したプロジェクトリーダー/下吉修
プロジェクトが始まった時点では、本当にそんなソフトが期日までにできるのかとても不安でした。でも開発過程でアイデアが広がり、いい技術も取り込め、最終的には信じられないほどのチームワークと速度で完成しました。
プロの世界でそのまま使える機能・性能を装備
 パソコンのプリインストールソフトというと、どうしてもオマケソフトというようなイメージを持ってしまうことが多い。しかしSonicStage Mastering Studioは、そうしたイメージとは大きく異なり、本当にプロのレコーディング、マスタリングの世界でそのまま使える実力を持ったソフトになっている。そのことはプロやハイエンドユーザーに以下のスペックを伝えればすぐにわかるはずだ。
・24bit/96kHzのレコーディングに対応
・ASIO 2.0ドライバをサポート
・プラグインにVSTとDirectXを採用
・Sony Oxford イコライザー搭載
・Waves L1 Ultramaximizer搭載
・Waves Renaissance Bass搭載
・Waves S1 Stereo Imager搭載
・Super Bit Mapping搭載
 知らない人にはさっぱりわからない言葉ばかりかもしれないが、プロの世界ではかなり使われているものが、ズラリと揃っている。また一般の人が揃えて購入しようとしたら、何十万円もかかってしまい、普通はちょっと手が出せないというものが並んでいるのである。
 この辺についてプラグイン担当の畠中は「このソフトに盛り込む要素技術のアイデアはいろいろありました。でも、エフェクトに関しては絶対に妥協したくなかったんです。そのため、社内の技術を利用するとともに、本当に良いものは社外からも技術を購入して搭載したいと思っていました。


 その点では企画担当にビジネス的なサポートをかなりしてもらいました」
と語る。
 ここでいう社内の技術というのは、24bitを16bitに変換する際に、理論上20bit相当の高音質CDを作成できるSuper Bit Mappingという技術。またプロの世界で高く評価されているSony Oxfordのイコライザーなど。ただ、Sony Oxfordはイギリスのオックスフォードにある研究機関でもあるため、ある意味社外のようなものではあったが。
Sony Oxfordのイコライザーはプロの世界でも評価が高い
▲Sony Oxfordのイコライザーはプロの世界でも評価が高い 拡大
Sony OxfordとWavesのマスタリング機能を搭載
 一方、社外としてはプロのマスタリングの世界で広く使われているイスラエルのWaves社のエフェクト。また、EDIROLの24bit/96kHzのUSBオーディオインターフェース、UA-5などだ。
 とくにWavesの3つのエフェクトは、SonicStage Mastering Studioの目玉機能ともいうべきもので、このことひとつをとっても世間で大きな評判になっている。
 Wavesのプラグインの中からL1、S1、Renaissance Bassの3つを選んだ理由について畠中は、「エフェクトには奇抜な効果を狙ったものとオーソドックスなものがあります。奇抜なものには色々な種類があるし、フリーウェアでも面白いものが数多く出ています。このソフトはVSTプラグインやDirectXプラグインを利用可能としていますから、興味のある人なら、それらを自由に組み込むことが可能です。だったら、マスタリングに必要なベーシックなものを厳選しようということで、この3つを選んだんですよ。


BASSの低音についてもいくつか候補はありました。同じWavesのMaxxBassを使うとかね。結局リミッタ、コンプレッサとして使いやすいL1、モノラルやちょっと位相の崩れた音に広がりをつけるS1などWaves側からも指摘をいただいて、あの3つになったんです。」と語る。
 とはいえ、この3つのエフェクトを搭載するのも一筋縄ではいかなかった。
「どうしても大変だったのはプロテクトの問題でした。それを短期間で実現し、実装しなくてはならない。これにはかなりパワーがかかりましたね。スケジュール的にも本当にギリギリの作業でした。一方、Sony Oxfordのイコライザーは元々DSP用に開発されたものでしたが、それをCPUベースで動くようにしなくてはならず、大変でしたね」
 と振り返る。これらのプラグインが搭載されたことが、非常に強力なソフトになった大きな要因であることは間違いない。
WavesのL1 Ultramaximizer
▲WavesのL1 Ultramaximizer 拡大
WavesのS1 Stereo Imager
▲WavesのS1 Stereo Imager 拡大
WavesのRenaissance Base
▲WavesのRenaissance Base 拡大
エンジニア同士のぶつかり合いで、いいものが仕上がった
 こうした、外部との共同開発という面では難しいこともいろいろとあった。
「WavesやSony Oxfordなどを含め、エンジニア同士でいろいろとやり取りはしました。彼らはその世界で第一線のプロダクトを出しています。だからこそ高額なものになっているし、仕事に対する高い誇りをもっているんです。こちらから、バイオにプリインストールするソフトに搭載したいということを伝えても、最初はピンときてくれなかったんですよね」と畠中は振り返る。ほとんどのやりとりはメールだったとのことだが、ここには誇りと誇りのぶつかりあいがあり、本当に期日までにできるのかかなり不安にもなったそうだ。
「でも、Sony Oxfordのイコライザーを入れるというプランは最初はなかったんですよ。Wavesと交渉しはじめたのよりも、ずいぶん後になって出てきたものです。実は、これが偶然の産物というか、たまたま別件で会議に出向いたら、Sony Oxfordの人が来日していて、その場にいたんです。そこからとんとん拍子で話が進んで、搭載することになったんですよ」と下吉。


 業務用から家庭用まで幅広いオーディオ技術を抱えるソニーならではのエピソードと言えそうだ。
「最高級のイコライザーであることはわかっていましたが製品版で7〜8万円もするもので、かつ専用ボードを使うということだったので、諦めていたんです。ところがイギリスから来ていた担当者に聞くと、ネイティブ化(専用ボードなしで動作するようにカスタマイズすること)が可能だと言うのです。
 その後、すぐにベータ版が完成したという連絡が入たのですぐに欲しい旨伝えると、テストしてからでないと渡せないから、こちらの試作ソフトを出してくれといわれた。それに対応すると、今度はレイテンシー(操作の効果が出るまでのタイムラグ)にクレームがついた。」と畠中。ソフトのコア部分を取りまとめたアーキテクトの森田は「つまり、こんな反応が遅いソフトに対しては、うちからはモノは出せない、ってね。それに奮起してこちらも作りこみましたよ。」と正月のおとそ気分もどこへ行ったかという気持ちの中、わずか一晩でこうした要求へ実装という形で答えた時もあったと振り返る。エンジニアの間にはこうしたやりとりがたくさんあったようだ。
反則技のような仕様変更を乗り越えてエフェクト機能は完成した
 最終的にはSonicStage Mastering Studioにおける非常に大きなポイントとなった各エフェクト。見た目にもカッコイイし、まさにプロの現場を彷彿させる雰囲気に仕上がっているが、実は最初からここまで狙っていたわけではなかった。
 搭載するならWavesのエフェクトということで、早くからWaves社と交渉していたものの、なかなか話がまとまらなかったのだ。そのため、最悪、プラグインなしという状況を想定しながら、プロジェクトが進んでいったのだ。つまり、当初はエフェクト機能についてはメインには据えていなかったのだ。そして、結局、契約が決まらないまま、仕様を固める最終段階まで入ってしまったのである。
 ところが、そうした時期が過ぎ、納期が差し迫った1月中旬に、Wavesとの契約が決まった。もうこの時点では、仕様変更など絶対にありえない時期だったので、とりあえず機能を搭載するだけのことが精一杯であった。でも、やはりプロジェクトメンバーの中からは「せっかくのWavesのエフェクトやSonyOxfordのエフェクトが入ったのにこれでは目立たなくてもったいない」という声が上がった。そして、時期的には不可能ではあったが、その思いはみんな共通でもあった。
「結局、デザイナー、エンジニアみんないっしょに1週間程で仕上げたんですよ。今思い返すと信じられないほどのパワーでしたね。普通、あそこまでのことってできないですから」と森田は振り返る。


 そう、実は当初このエフェクト機能は Windows のダイアログベースで動くとても地味なもので、かつ同時に使用可能なエフェクトは2個までという仕様だった。しかし、この最終段階における驚異的なスピード開発で、見た目もラックマウントタイプのカッコイイものとなった。さらに、WavesやSonyOxfordのエフェクト以外にVSTプラグイン、DirectXプラグインを加えて、同時に使用できるエフェクトの数も8個までとなった。まさにメイン機能にふさわしいものへと生まれ変わったのである。
 開発の流れからいうと、やや反則技的な仕様変更であったが、動作するものが先にできあがったため、この仕様でいくことが決断された。
ラック風にならぶエフェクター
▲ラック風にならぶエフェクター 拡大
門外不出のSuper Bit Mappingも装備
 一方、SonicStage Mastering Studioのテクノロジーという中で、もうひとつ大切なのがSuper Bit Mappingだ。これはCDそのものを開発したソニーが作り出した技術で、マスタリング機材としては必須というもの。業務用の機材としては、200万円近くするそうだが、それがソフトの中の1機能として搭載されてしまったのだ。
 この辺の経緯について下吉は「きっかけは私がSuper Bit Mappingの担当者と面識があったということからでしょうか。以前、近くで仕事をしていた時期があり、Super Bit Mappingを開発しているときから横で見ていました。だからどんなことができるもので、どんな人が作っているかもよく知っていたんです。まさか、こういう形で当時の経験が活きるとは思いませんでした」と話す。
 だが、これまで門外不出といった感じのSuper Bit Mappingをソフトとして外に出してしまうことに社内的な問題はなかったんだろうか?
「これは社内的には問題にはなりませんでした。というよりも、『ぜひやろう!』という声が出てきたくらいですから。


 ただ、彼らもわれわれの目指しているものをすぐには理解できなかったようで、『バイオに載せてSuper Bit Mappingを世に広めましょう!でも何するの?』ってね(笑)。でも、本当に話をしてプログラムを要請したら、1週間もしないうちにものがやってきて、それでもう完全にOK。予想以上に簡単に事は進みましたよ」と下吉は語る。
 このように、社内外といろいろな交渉があり、プロジェクトチーム外の人たちの協力も得られたことで、SonicStage Mastering Studioはようやく完成したのである。
Super Bit Mappingを利用すれば、より高音質なCDを作成できる。
▲Super Bit Mappingを利用すれば、より高音質なCDを作成できる。 拡大
バイオは高級オーディオ機器としての一歩を踏み出した
 こうして完成したSonicStage Mastering Studioは、2003年5月に発表された新型バイオ全モデルにプリインストールされた。プリインストールソフトということもあって、それほど大きなプロモーション活動がされているわけではないが、ネット上などで取り上げられるなど、マニアの間でも大きな話題になっている。
 EDIROLのUA-5を利用することで24bit/96kHzでの録音および編集が可能となるわけだが、これはオーディオ機器として見たとき16bit/48kHzというDATの性能を遥かにしのぐ、まさに最高級なもの。


オーディオメーカーであり音楽を理解しているソニーだからこそできたというプロダクトだ。
 このSonicStage Mastering Studioによって、バイオは高級オーディオ機器としての一歩を踏み出した。これによりバイオで楽しむ音楽の世界がさらに大きく広がったのだ。
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